沈香
(じんこう)
入手時名称:沈香 撮影場所:富山大学 和漢研 民族薬物資料館 TMPW No.:18227 |
生薬別名 | |
生薬ラテン名 | Aquilariae Resinatum Lignum |
生薬英名 | Agarwood |
科名 | ジンチョウゲ科 Thymelaeaceae |
基原 | - Aquilaria agallocha Roxburgh (IPNI:830814-1) - Aquilaria crassna Pierre ex Lecomte (IPNI:830826-1) - Aquilaria malaccensis Lamarck (IPNI:830835-1) - Aquilaria sinensis Gilg (IPNI:830848-1) - Aquilaria filaria Merrill (IPNI:830829-1) |
薬用部位 | 材, 特にその辺材の材質中に黒色の樹脂が沈着したもの. |
選品 | 堅固で黒かっ色、表面につやがあり水に沈み、燃え易い香りのよいものがよい (文献Q1)。 |
主要成分 | セスキテルペノイド sesquiterpenoids - Agarol - Agarospirol - Dihydrokaranone - Jinkoh-eremol - Jinkohol - Jinkohol II - Kusunol - Oxo-agarospirol - α-Agarofuran - (-)-10-epi-γ-Eudesmol フェニルプロパノイド phenylpropanoids - Hydrocinnamic acid - p-Methoxyhydrocinnamic acid γ-ピロン類 γ-pyrone derivatives - Agaroterol その他の芳香族誘導体 other aromatic derivatives - Benzylacetone - p-Methoxybenzylacetone |
薬理作用 | 鎮痛, 鎮静(精油成分). 抗菌(煎液: ヒト型結核菌, チフス菌, 赤痢菌). |
臨床応用 | 鎮嘔, 鎮咳, 鎮静薬として, ヒステリー, 気滞, 嘔吐, 喘息, 心臓衰弱などに応用する. 一般に高級線香や合せ香の香料として用いられる. |
頻用疾患 | 胸脇が張って痛む, 胸が苦しい, 胸痛, 嘔吐, しゃっくり, 呼吸困難, 呼吸促迫, ヒステリー |
含有方剤 | 喘四君子湯 , 丁香柿蒂湯 |
帰経 | 脾, 胃, 腎 |
性 | 微温 |
味 | 辛, 苦 |
神農本草経 | |
中医分類 | 理気薬 |
薬能 | 行気止痛,温中止嘔,納気平喘.胸腹脹悶疼痛,胃寒嘔吐,しゃっくり,腎虚気逆喘急に用いる. |
薬徴 | |
備考 | 日本薬局方外生薬規格2018収載品. 局外(2015), 沈香の原植物には Aquilaria agallocha Roxb.(インド,マレーシア,ベトナム,カンボジア産)の他,A. malaccensis Lam.(マレーシア), A. baillonii Pierre(カンボジア), A. crasna Pierre(カンボジア,ベトナム),A. sinensis (Lour.) Gilg(中国)などが含まれる.日本はシンガポール及びベトナムからの輸入量が多い.セスキテルペノイド類の組成からJinkohol, Jinkohol IIを多く含むシンガポールI型(SI型)とそれらを含まない SII 型,Dihydrokaranone, Oxo-agarospirolを多く含み,Jinkohol, Jinkohol IIを含まないベトナム型(V型)に区別される.中国産沈香はV型に疑似し,特にOxo-agarospirolの含量が高い.同類生薬の伽南香(伽楠香,奇楠香,伽羅とも称される)は沈香より品質が良いものとされてきた.これには沈香に含まれないクロモン類が含有される.またベンゼンエキス量,アセトンエキス量が沈香より高い.『中華人民共和国薬典 2015』には中国に産する A. sinensisが収載され,「土沈香」,「海南沈香」などと称する.日本において沈香は大部分が薫香用として輸入される.正倉院収蔵薬物の「沈香及び雑塵」,「全浅香(紅塵)」及び「黄熟香(蘭奢待)」はセスキテルペノイド類の組成及び1, 8-diethylchromone, phenyethylchromoneなどが検出されなかったことから,ベトナムなどインドシナ半島北部に産する沈香に近いことが判明している.このように8世紀中頃に現在の市場品に近いものが渡来していた. 外部リンク: 民族薬物DB, KNApSAcK, KampoDB |
参考文献 | 選品 Q1) 難波 恒雄, 津田 喜典 編: 生薬学概論 (改訂第3版), 南江堂, 東京, 1998. 主要成分 C1) 和漢薬百科図鑑 Vol. II, pp. 181-184. C2) 生薬, 40 (3), 252 (1986). C3) 生薬, 40 (3), 259 (1986). C4) 生薬, 40 (3), 266 (1986). C5) 生薬, 40 (3), 271 (1986). C6) 生薬, 40 (3), 275 (1986). C7) 生薬, 41 (2), 142 (1987). C8) 図説正倉院薬物, pp. 132-135, 147-148. |